100年という歳月は、自らのルーツを辿ることで、繋がりを実感できる最長の時間ではないだろうか。
一方で、それは100年を超えて記憶を引き継ぐことの困難さをも意味している。
私は今回、人々の記憶を繋ぐための基準、時を測る物差しとなるような作品を描きたいと考えた。
「青天の小径」は、世代を超えて記憶を語り継ぐ大切さと難しさを思いながら、一瞬で日常を奪われたあの夏の日から、私たちが生きる今、そして未来へと繋がる時の流れや人々の想いの連なりを、青空に白い雲が拡がるかのように描いたものだ。
また、壁の青色は原爆投下当時の午前8時15分の空に最も近いと考える色を選択。広島の海岸線をかたどった部分もある。
迷路のように見える模様は長年用いているパターンで、大切な思い出と繋がるために描いた筆跡が集積した形だ。径を描くことは、私にとって記憶をたどる旅のようなものである
2045年の世界に暮らす人々が、心から美しいと感じられる澄んだ青色を見上げられることを心から願っている。
広島県尾道市出身。1995年金沢美術工芸大学卒業。現在、金沢市在住。
若くしてこの世を去った妻や妹との思い出を忘れないために、浄化や清めを喚起させる「塩」を用いたインスタレーションを制作。床に巨大な模様を描く作品は長い時間を掛け、一人で描き上げる。展覧会最終日には作品を鑑賞者と共に壊し、その塩を海に還すプロジェクトを実施している。また、緻密なドローイングや壁画の他、近年は企業とのコラボレーションも手掛けるなど精力的に活動を展開している。ニューヨーク近代美術館 MoMA P.S.1、エルミタージュ美術館、東京都現代美術館、箱根・彫刻の森美術館、金沢21世紀美術館、瀬戸内国際芸術祭、広島県立美術館等、国内外で多数発表。